バリアフリー法の効果もあり、おそらく日本は、世界一便利で綺麗な多目的トイレ王国です。国土交通省では「建築設計標準」を定め、多目的トイレに関しても、必要なサイズ、あるべき設備など、設計の見本を具体的に示しています。
より良いトイレを増やすために、実際に利用する障がい者と介助者からの、意見や要望を紹介します。
○大型ベッドの導入が少ない
国土交通省の「建築設計標準」では、「介助を必要とする高齢者や、肢体不自由児・肢体不自由者等には、ベッド上での着脱衣やおむつ交換、排泄 (自己導尿等)等が必要となることがあるため、大型ベッドを設置することが求められている。」とし、長さ150cm以上、幅60cm以上、高さ50cm程度を推奨しています。
「大人用ベッド」「ユニバーサルベッド」など、用語もまだ不統一です。
重度の身体障がいがある人を介助する家族からの、最も多い要望は大型ベッドの配置です。配置されている多目的トイレは、現状では少ないのが実情です。
ただしベッドがあることで、不適切な利用につながるリスクはあります。対策として、通常はロック状態にしておき、利用希望者はインターフォンで管理センターに連絡をして、リモートで開錠するトイレがあります。
○冬季の寒いトイレは心配
夏の暑いトイレも困りますが、身体障がいがある人の場合、寒いトイレは体調不調の原因になる可能性を恐れます。
寒冷地以外でも、屋外型トイレ内の多目的トイレには、ウォームレットだけではなく暖房器具を設置し、冬季は常時可動していると安心です。
○異性介助で利用出来ない
古い施設を改修してバリアフリー化しているトイレなどで、男女別トイレ内にそれぞれ多目的トイレを設置しているケースがあります。家族で異性介護の場合、利用に困ることがあります。
男女別トイレ内の多目的トイレのほうが、気軽に利用しやすいという人もいます。最善なのは、独立個室と男女別内それぞれに多目的トイレ、または広いスペースの個室があることです。
○固定式の手摺りが邪魔
あまりスペースに余裕がない多目的トイレは珍しくありません。バリアフリー法施行以後、車椅子が入らない狭いトイレは新設されませんが、便器の横、あるいは洗面台の横に固定された手摺りがあることで、車椅子が回転できない、移動できないトイレはあります。多目的トイレの手摺は、跳ね上げ式が便利です。
○車椅子が洗面台の下に入らない
新しい施設のトイレでも、たまにあります。おそらく設計者は、車椅子利用者は便器から手が届く、横の小さな手洗いを利用することを想定しているのかと思われます。そういう利用者もいるでしょうが、多目的トイレの洗面台は、下部に空間があるタイプが便利です。
○間違って非常ボタンを押してしまう
多くのトイレに、非常ボタン、呼び出しボタンがあります。当然、押しやすい場所に、簡単に押せる構造で設置されるので、手を動かして間違って触れること、それだけで敏感に反応することがあります。
手摺のよく掴む場所の横など、誤接触が頻繁に起こりやすい場所からは、少しずらして設置すると、利用者は安心です。
○自動ドアは間違いで閉まる
出るときに内側からドアを閉めると、そのまま使用中の状態になります。そういうイタズラを目撃したこともあります。そのため多くのトイレは30分の連続使用で自動解除される設定になっています。
手をかざして開錠するタイプで、介助者が用を足している最中に、知的な障がいのある人が偶然ドアを開けてしまった事例があります。
ウィルス感染対策の面では、逆に手動式のドアは問題があります。
多目的トイレのドアは、手動か自動かは、難しい問題です。
○待ち時間がわからない
トイレが使用中で待つことは必ずあります。そのまま待つべきが、違うトイレに移動すべきか、この判断に迷います。
健常者の不適切な利用は論外ですが、オストメイトを利用する人などで、トイレ利用に10分以上の時間が必要な障がい者は少なくありません。
設備的に待ち時間対策があるトイレは、おそらくまだありません。
○運用上の問題、故障、節電
最後に、実際にあった、困った経験談を2つ紹介します。
その施設に1つしかない多目的トイレが故障で使用禁止になっていました。確認したところ、鍵が故障ということなので、無理を言い利用させていただきました。
利用者が少ない施設の多目的トイレのウォシュレットの電源が、節電のために意図的に切られていました。作動しないので気が付き、電源を入れてしばらく待って利用しました。
以上、多目的トイレを利用する障がい者・介助者から、よく聞かれる生の声を紹介しました。中でも、大型ベッドが少ないことは、重度障がいの人にとって、重大な問題です。
(本稿は2020年8月に執筆しました)