各市町村は地域のバリアフリーを進めるための「マスタープラン」と「基本構想」を作成する努力義務があります。また障がい者や関係者は、マスタープランと基本構想の内容を提案し、検討に参加できる権利があります。
バリアフリー法で定められている「マスタープラン基本構想」制度について、ポイントを絞って簡潔に紹介します。
○マスタープランとは具体性のある地域のバリアフリー化計画
いつまでに、どこを、こうする。特定のエリアに関するバリアフリー化の具体的な目標がマスタープランです。
「3年後までに駅と病院をつなぐルートの段差を解消する」などが各論のイメージです。
特定のエリア全体のプランなので、上記のような各論が複数組み合わされ、エリア全体の移動が円滑になる計画を策定することが、市町村の努力義務です。
○エリアの広さは200m×200m以内
国土交通省から、マスタープラン作成のガイドラインが公表されています。それによると対象エリアは「生活関連施設が徒歩圏内に集積している地区」で、「生活関連施設及び生活関連経路についてバリアフリー化の促進が特に必要な地区」、そして「その間の移動が通常徒歩で行われる地区」です。広さについては「徒歩圏内の考え方の目安として、面積約 400ha 未満の地区」としています。
生活関連施設とは「旅客施設、官公庁、郵便局、病院、文化施設、大規模商業施設や公園等」です。
集積している地区とは「旅客施設または官公庁施設、福祉施設等に該当するものが概ね3以上ある」地区です。
しかしながら「旅客施設を含まない移動等円滑化促進地区の設定が可能」とし、「バリアフリー化を促進することが、総合的な都市機能の増進を図る上で有効かつ適切な地区」であればよいとしています。
広範囲ではなく、範囲を狭めた地区のバリアフリー化を、なるべく具体的に計画することがマスタープランのポイントです。
○具体的な事業計画がなくても可
目標の具体性は求められますが、ガイドラインはあくまでバリアフリー化に「係る方針」で、「地域のバリアフリー化の機運醸成を図ること」が目的です。したがって、マスタープラン策定時に、具体的な事業計画がなくても問題はありません。先にマスタープランがあり、後からそれを実現する事業計画を進めることが許容されています。
その一方、令和2年5月のバリアフリー法改正により、マスタープランを具体的な事業として位置づけることが可能になり、令和2年度予算より「市街地整備事業における歩行空間の整備や、都市公園・緑地等事業において公園のユニバーサルデザイン化を図る場合にも交付金の重点配分の対象」となりました。現在ではマスタープランをそのまま実施計画として、事業を予算化することが可能です。
○マスタープランと心のバリアフリー
令和2年5月のバリアフリー法改正により、令和2年6月 19 日以降に作成するマ スタープランには、「心のバリアフリー」を促進するソフト対策の記載が義務付けられました。
「地域住民等のバリアフリーに関する理解の増進と協力の確保」を記載し、その取り組みを具体的な事業として位置付けることができます。
○マスタープランは5年毎に見直す
ガイドラインでは「おおむね五年ごとに」、対象エリアの「状況についての調査、分析及び評価を行うよう努めるとともに、必要があると認めるときは、移動等円滑化促進方針を変更するもの」としています。
重要なチェックポイントとして「多くの人が利用する経路の選定」「生活関連施設相互のネットワークを確保」「隣接自治体との連続性を確保」などが挙げられています。
○マスタープランと基本構想
バリアフリー法では、「マスタープラン」と「基本構想」の作成が定められています。マスタープランと基本構想は別々に存在する計画ではありませんが、法律上は区分けされています。
「基本構想」は平成 18 年のバリアフリー法で、「移動等円滑化基本構想」として定められた、バリアフリー法第 25 条等に記載されている「構想」です。
「マスタープラン」は平成 30 年5月の改正で「移動等円滑化促進方針」としてバリアフリー法第 24 条の2等に記載されている「方針」です。
法律上は「方針」である「マスタープラン」が上位概念で、その事業計画が「基本構想」という関係です。
しかし、その内容を表現する際には「マスタープラン・バリアフリー基本構想」などとされることが多く、事実上一体化した計画として扱われています。方針と構想を併せて、市町村の「マスタープラン基本構想」と理解したほうが、わかりやすいと思われます。
バリアフリー法に基づく「マスタープラン基本構想」制度は、市町村にバリアフリーを推進する努力義務を課し、住民及び関係者にその内容を提案する権利をもたらしています。
(本稿は2020年11月に執筆しました)