日本を含む「国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)」は、60ヵ国を超える国が加盟する国際機関です。そしてこの地域には、約6億5千万人の障がい者が暮らしています。
1983年から1992年まで「国連・障害者の十年」が国際的に取り組まれました。その翌年の1993年からESCAPで「アジア太平洋障害者の十年」の取り組みが始まりました。この取り組みは、2003年、2013年と10年単位で継続され、現在は2022年までを期間とした、3回目の「アジア太平洋障害者の十年」です。
この30年の取組みの概略と、現在の目標を抜粋して紹介します。
〇1993年~2002年「10年の行動課題」
北京で開催された会議で採択されたESCAP域内国が障害者の完全参加と平等の実現に向けて各種施策に取り組むための宣言です。
障害者の生活の質を高めるための12の政策目標を決定しました。12の目標は以下の分野です。
「国内調整」、「立法」、「情報」、「啓発広報」、「施設の整備及びコミュニケーション」、「教育」、「訓練及び雇用」、「障害の予防」、「リハビリテーション・サービス」、「介助機器」、「自助組織」、「地域協力」。
〇2003年~2012年「びわこミレニアム・フレームワーク」
2002年に採択された、次の10年の行動計画です。正式名称は「アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」です。
定められた優先行動分野は以下の7つです。
「障害者の自助団体及び家族・親の団体」、「女性障害者」、「早期発見、早期介入と教育」、「自営を含む訓練と雇用」、「各種建築物・公共交通機関へのアクセス」、「情報通信及び支援技術を含む情報通信へのアクセス」、「能力構築、社会保障と持続的生計プログラムによる貧困の緩和」。
〇2013年~2022年「仁川(インチョン)戦略」
現在取り組まれている計画です。インチョン戦略は、10の目標、27のターゲット、62の指標から成り立っています。すべてを掲載すると膨大になるので、本稿では「10の目標」と、それに関連するターゲットと指標を各一つ抜粋して紹介します。
目標1:貧困を削減し、労働および雇用の見通しを改善すること
ターゲットの一つは「極度の貧困者」で、その指標は「国際的な貧困線である1日1.25米ドル未満(PPP)で生活する障害者の割合」です。
目標2:政治プロセスおよび政策決定への参加を促進すること
ターゲットの一つは「障害者が政策決定機関において代表者を送ること」で、その指標の一つは「障害者が、国会またはそれに相当する国の立法機関に占める議席の割合」です。
目標 3:物理的環境、公共交通機関、知識、情報およびコミュニケーションへのアクセスを高めること
ターゲットの一つは「公共交通機関のアクセシビリティおよび利便性を高める」で、関連する指標の一つは「アクセシブルな国際空港、港湾および主要交通拠点の割合」です。
目標4:社会的保護を強化すること
ターゲットの一つは「障害者に対して、リハビリテーションを含むすべての保健医療サービスへのアクセスを増大させる」で、指標の一つが「一般国民と比較して、政府が助成する保健ケアプログラムを利用する障害者の割合」です。
目標5:障害のある子どもへの早期関与と早期教育を広めること
ターゲットの一つは「障害のある子どもと障害のない子どもとの初等学校・中等学校在籍率の差を半減させる」で、指標は「障害のある子どもの初等学校在籍率・中等学校在籍率」です。
目標 6:性(ジェンダー)の平等と女性のエンパワーメントを保障すること
ターゲットの一つは「障害のある少女および女性が、障害のない少女および女性と同様に、性や生殖に関する保健サービスにアクセスできるように保障する」で、指標の一つは「性的虐待や搾取を含め、障害のある少女および女性に対する暴力を削減することを目的とする、政府および関連機関が主導するプログラムの数」です。
目標 7:障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること
ターゲットは「障害インクルーシブな災害リスク削減計画の強化」で、進捗状況を確認する指標の一つは「アクセシブルな避難所および災害救援所の割合」です。
目標8:障害に関するデータの信頼性および比較可能性を向上させること
ターゲットは「障害者にアクセシブルな形式で、信頼しうる、国際的に比較可能な障害関連の統計の作成と普及」で、進捗状況を確認する指標の一つは「インチョン戦略の目標およびターゲットの達成に向けて進捗状況を確認するための基準となるデータを確立した政府の数」です。
目標 9:「障害者の権利に関する条約」の批准および実施を推進し、各国の法制度を権利条約と整合させること
ターゲットの一つは「差別禁止条項、技術的な基準、および障害者の権利を下支えし保護するその他の対策を盛り込んだ国内法を立法化するとともに、障害者を直接的または間接的に差別する国内法を改正または廃止する」で、指標の一つは「障害者の権利を下支えし保護する、国の差別禁止法制度の有無」です。
目標10:小地域、地域内および地域間の協力を推進すること
ターゲットの一つは「障害の諸問題および障害者の権利に関する条約の実施に関わる経験および良好な実践例を地域間で情報交換する」で、関連指標の一つは「5つの国際連合地域委員会における障害者の権利に関する条約の実施を支援する共同活動の数」です。
以上のように長期にわたる計画および目標を国際的に定めて、各国で障がい者を守る取り組みが続けられています。
(本稿は2020年6月に執筆しました)