若くから車椅子を利用する身体障がいのある人も状況は一人ひとり違います。
パラリンピックの選手のような人、重度の障がいで体がほとんど動かせない人、そして知的あるいはコミュニケーション面での重複障がいがある人。
この中で重複障がいのある人の中には、強度行動障害の症状がある人もいます。
強度行動障害の人の典型は、運動能力としては自立歩行が可能で、強い力で物を投げる、壊す、暴力をふるうなどの行為が、障がいの現象になります。
これに対して車椅子を利用する人の場合、身体能力が低いので、強い力で人を殴るなどの暴力レベルは一般に高くはありません。
重複障がいのある強度行動障害者の典型は、たとえば脳性麻痺などの病気で身体障がいがあり、かつ自閉傾向が強く、知的な障がいがある人などです。
このような人の場合、以下のような行動障害が現れる場合があります。
〇自傷行為と介助者への噛みつき
身体障がいがあり、殴る、つかむ、蹴るなどの行為が上手くできない人でも、噛みつくことは比較的容易にできます。自傷行為としては、自分の口まで腕を動かすことが出来るなら、自分の手に噛みつくことが可能です。
口の近くにある物に噛みつく行為が可能であれば、暴力行為としては、介助者の手が口の近くあると噛みつくことが出来ます。
車椅子を利用する身体障がいがある人でも、噛む力がそれなりにある人の場合、力いっぱい噛みつかれると大けがをする恐れがあります。
〇夜になると騒ぐ睡眠障害
強度行動障害の典型的な症状、睡眠障害は車椅子の人でもおこります。ベッドから自力では下りることが出来ない運動能力の人でも、ベッドの上で叫び続ける、暴れる、結果として昼夜逆転するなどの症状をおこします。
自閉傾向が強い人に多くみられますが、極端に睡眠時間が短い日が連続しても当人は平気で、日中は通常の活動が出来る人もいます。
介護する家族にとって、まともに睡眠がとれないことは身体的にとても辛いことです。
〇大声で叫ぶ、奇声をあげる
強度行動障害の人は多くの場合、はっきりとした発語、言語コミュニケーションが出来ません。突然「ウアー」「ギャー」といった大きな声をあげることがあります。
外にいるときはもちろん困りますが、家の中での奇声も近所迷惑になり、家族は悩みます。
〇生活パターンの中でのこだわり行動
自立歩行ができる強度行動障害の人の場合、毎日同じ道を通る、同じ場所で同じことをする、などのパターンが崩れると、騒ぐ、暴れるなどのパニック症状をおこす場合があります。
重度の身体障がいがある人の場合でも、家の中の物の配置が違うと我慢できない、ある部屋の照明が点いていないと気が済まないなど、狭い行動範囲の中でパターン化されたことが崩れると、騒ぐケースがあります。
年単位でみると、こだわるパターンの対象は変わりますが、何かにこだわる行為は、無くならない人が多いようです。
関連する記事として「家族を悩ませる、重い障がいのある人の不可解なコダワリ行動」を別稿で掲載しています。ご参照ください。
一般に強度行動障害は、幼少期は症状が軽度で、10代になってから重度化する傾向があります。
身体障がいの他に重複した障がいのあるお子様に、成長とともに上記のような症状が現れてきた場合、強度行動障害という観点からの医療、療育、個別支援が考えられます。簡単に治癒できる疾患ではありませんが、主治医や専門機関に相談されることをお薦めします。
(本稿は2020年4月に執筆しました)