消費税非課税の福祉カーはベース車両よりも高いのか安いのか

主要メーカーがカタログモデルにしている福祉カーは、高いのか安いのか。

ベースとなる一般車両は、購入時に消費税が10%かかります。一定の要件を満たした福祉カーは消費税非課税。では「税込み価格のベース車両」と、様々な福祉装備が付いた「非課税価格の福祉車両」の希望小売価格は、どれくらい違うのでしょうか。

2020年5月現在のカタログ価格で比較検証しました。

重度障がいがある家族のために福祉カーの購入を検討する場合、主な仕様の選択は、車椅子のまま後部から乗り込む「車椅子乗車」か、後部座席または助手席に電動シートで乗り込む「チルトシート」か、どちらかの選択になります。

福祉カーの車両のタイプを「車椅子乗車」と「チルトシート」に分けて、カタログ価格を紹介します。

「車椅子乗車」仕様の消費税非課税の福祉車両は、ベース車両の税込み価格に比べて、軽自動車で+10万円以上、ミニバンでは+30万円以上高くなります。

(以下は「ベース車両の税込価格」±「差額」=「福祉カーの非課税価格」を表します)

〇軽自動車のホンダN-BOXの場合

G EXターボ ベース車両+105,840円=1,898,840円

G       ベース車両+164,340円=1,575,640円

〇コンパクトミニバン ホンダフリードの場合

ハイブリッドG ベース車両+319,500円=2,881,400円

G       ベース車両+440,600円=2,601,000円

〇5ナンバーミニバン トヨタヴォクシーの場合

2WD ZS    ベース車両+339,400円=3,184,000円

〇5ナンバーミニバン 日産セレナの場合

2WD X セカンド仕様 ベース車両+566,800円=3,143,000円

2WD X サード仕様  ベース車両+533,800円=3,110,000円

2WD ハイウエイスター ベース車両+550,200円=3,309,000円

2WD e-POWER X   ベース車両+512,500円=3,510,000円

車椅子乗車仕様車は、ベース車両に対して、消費税非課税でもこのような希望小売価格になります。一般的にいって、値引き幅はベースとなる一般車両のほうが大きいことが推定されるので、実際の価格差はこれ以上に大きい可能性があります。

車椅子乗車仕様車

 

「チルトシート」仕様の価格差は、トヨタのシエンタで+1万円から最大で+5万円、ボクシーで+8万円から+10万円です。

〇コンパクトミニバン トヨタシエンタの場合

ガソリン2WD X    ベース車両+63,800円=1,914,000円

ガソリン2WD  G    ベース車両+44,900円=2,103,000円

ガソリン4WD X    ベース車両+50,700円=2,045,000円

ガソリン4WD  G    ベース車両+31,800円=2,234,000円

ハイブリッド  X    ベース車両+25,800円=2,294,000円

ハイブリッド  G    ベース車両+11,600円=2,436,000円

〇5ナンバーミニバン トヨタヴォクシーの場合

2WD ZS        ベース車両+99,400円=2,944,000円

4WD ZS        ベース車両+81,400円=3,124,000円

日産セレナで比較すると後席スライドアップ車でも+20万円から+30万円になります。

〇5ナンバーミニバン 日産セレナ後席スライドアップ車の場合

2WD XV        ベース車両+291,200円=3,028,000円

2WD ハイウエイスターV ベース車両+268,500円=3,255,000円

2WD e-power XV    ベース車両+246,700円=3,473,000円

2WD e-power ハイウエイスターV ベース車両+293,900円=3,793,000円

4WD XV        ベース車両+238,600円=3,224,000円

4WD ハイウエイスターV ベース車両+214,400円=3,466,000円

アルフォードの場合は例外で、逆に最大でマイナス30万円になります。

〇フルサイズミニバン トヨタアルフォード サイドリフトアップチルトシート装着車の場合

2WD S        ベース車両- 24,000円=3,884,000円

2WD G        ベース車両-118,000円=4,421,000円

2WD GF        ベース車両-302,000円=4,883,000円

4WD S        ベース車両-  50,000円=4,113,000円

4WD G        ベース車両-144,000円=4,649,000円

4WD GF        ベース車両-269,000円=5,114,000円

E-Four HYBRID X         ベース車両- 3,000円=4,587,000円

E-Four HYBRID SR        ベース車両-171,000円=5,320,000円

福祉カーは障害者手帳の交付を受けていない人が購入しても、一定の基準を満たした車両の場合、消費税が非課税になります。アルフォードの場合、一部の装備の違い、納車までのリードタイム、新車の値引き額などを考慮しなければ、チルトシート仕様の福祉カーを購入したほうが安くなります。

消費税が非課税でも、一般に福祉カーはベース車両よりも希望小売価格は高くなっています。特に車椅子のまま乗車するタイプは高額です。

(本稿は2020年5月に執筆しました)

別稿で「走り・燃費・先進安全装備 マイカーとしての福祉車両 クラス別実力評価」を掲載しています。ご参照ください。

走り・燃費・先進安全装備 マイカーとしての福祉車両 クラス別実力評価

障がいのある家族のために、マイカーとして福祉車両の購入を検討している方に、人気車種の実力と特徴を紹介します。

軽自動車、コンパクトカー、ミニバンの3部門別に、2019年度の販売台数上位3車種を比較しました。

軽自動車部門

・ダイハツ「タント」 3,732台

・ホンダ「N-BOX」 2,278台

・スズキ「スペーシア」 950台

福祉車両の販売台数では上記の通りの実績ですが、軽自動車全体の2019年販売実績でも、上記3車種が3強です。

全体の順位と販売台数は ①「N-BOX」25万台 ②「タント」17万台 ③「スペーシア」16万台です。「N-BOX」は2014年から5年連続で軽自動車販売台数1位を達成しています。

「N-BOX」は2017年に2代目にフルモデルチェンジ。デザインはキープコンセプトながら、プラットフォームとエンジンを一新しました。さらに、先進の安全システム「ホンダセンシング」をほぼ全車種全グレードに標準搭載しました。その結果、車両価格は約10万円値上がりしましたが、マーケットに好感をもって受け入れられています。

「スペーシア」も同年2017年末にフルモデルチェンジして2代目がデビュー。スズキの新世代プラットフォーム「ハーテクト」を採用し、剛性を高めて軽量化を実現しています。また全車にマイルドハイブリット機構を導入し、同時にカメラとレーダーを組み合わせた先進の安全システムを標準装備しました。

「スペーシア」の福祉車両販売台数が低いのは、同じスズキの「エブリイ」と「エブリイワゴン」に票が分かれているのも要因です。「スペーシア」「エブリイ」「エブリイワゴン」3車種の2019年度福祉車両合計販売数は2,000台を超えます。

「タント」は2019年に4代目にフルモデルチェンジ。ダイハツの新世代プラットフォーム「DNGA」を採用し、ボディ剛性を30%向上させ、骨格重量は40%のダイエットを成功させています。そして最新の安全システム「スマートアシスト」を装備。助手席側のBピラーをドアに内蔵させた「ミラクルオープンドア」は旧モデルから継承しました。

新型プラットフォームによる走行性能、燃費、ハイトスタイルによる居住性と乗降性、そして先進の安全システム。現行の人気3車種は、大きな差がなく、高いレベルで競合しています。

車選びのポイントは、デザインの好き嫌い、販売店の印象、納車納期など、ちょっとしたことを重視することだと思います。

コンパクトカー部門

トヨタ「シエンタ」 2,968台

トヨタ「ポルテ・スペイド」 551台

ホンダ「フリード」 462台

販売台数では「シエンタ」の一人勝ちです。内訳は車椅子乗車タイプが2,427台、助手席回転シートタイプが541台。「ポルテ・スペイド」は助手席乗降タイプのみで551台なので、「シエンタ」の車椅子乗車タイプが売れています。フリードの車椅子乗車タイプは262台とやはり過半数を占めます。このクラス、コンパクトカー部門では、車椅子乗車タイプが人気です。

現行「シエンタ」は2015年にデビューした2代目で、アクアをベースに後半部を延長したプラットフォームを採用しています。ハイブリットタイプはアクアのシステムを流用、ガソリンエンジン車は先代のカローラフィルダーなどのエンジンを流用しています。2018年にマイナーチェンジして、先進の安全システムを主なグレードで標準装備しました。大胆なボディデザインが目を惹きます。

「ポルテ」「スペイド」の姉妹車は、2012年にデビューした2代目。ヴィッツと同じBプラットフォームを採用しています。そのため最小回転半径はFF車では4.6mと取り回しの良さが自慢です。2015年には燃費の改善改良を行いカタログデータで22.2km/リッターとなり、ライバルと同水準になりました。2016年には先進の安全システムを導入。2019年位には歩行者を検知する最新のシステムに切り替わりました。パッケージでは助手席側が1枚ドアなのが特徴。その大きなドアを利用した助手席乗降が魅力です。

「フリード」現行モデルは2016年に登場。2019年にマイナーチェンジして、先進の安全システム「ホンダセンシング」がアップデートされました。現在搭載されているACCは、時速30km以上で作動する設定なので、渋滞時は使用できません。

福祉車両の販売数ではシエンタの大きく水をあけられていますが、一般車両の販売台数全体ではフリードはシエンタに肉薄しています。

シエンタとフリードは、どちらもハイブリット車とガソリン車の設定があり、燃費にほとんど差はありません。カップホルダーなどの装備の充実具合も甲乙つけがたいハイレベルです。2車の最大の違いは3列目シートの形状や収納方式ですが、福祉車両の場合はその観点の違いは意味をなしません。

背はフリードがやや高く、運転席周りのスペース、運転席からの視界は、ややフリードが広い設計です。スペースユーティリティーを重視するなら、若干フリードが有利。シャープなデザインを好むならシエンタ。「ポルテ・スペイド」は、ライバルに比べて積極的に選ぶ利点があるとすれば、助手席側のドアが広く開くことです。

ミニバン部門

トヨタ「ノア・ボクシー」 4,307台

日産「セレナ」 904台(2017年度実績)

ホンダ「ステップワゴン」 229台

この部門では「ノア・ボクシー」の兄弟車が圧勝しています。ただしセレナの販売データが古いため、販売台数の差は正確ではありません。

「ノア」「ボクシー」そしてついでに「エスクァイア」の違いについて説明します。「ノア」と「ボクシー」は純粋な姉妹車で、トヨタ販売店の系列で名称を変えて販売されています。トヨタではこの伝統的な販売戦略を見直す方針で、次期モデルからは1車種に統合されることが予想されています。若干の内外装の違いはありますが、「ノア」と「ボクシー」は同じ車と考えて問題ありません。

「エスクァイア」は、フルサイズミニバン「ヴェルファイア」などで取り入れた、派手な内外装を与えられた車種です。車の基本機能は「ノア」と「ボクシー」と同じですが、見えるところ、触れる箇所は違う車です。

現行モデルは2014年にデビューした3代目。その後マイナーチェンジがあり、現在では3車種とも先端の安全システムなどが搭載されています。ただしトヨタらしい車格のヒエラルヒーにより、上位車種の「ヴェルファイア」などに搭載されている安全システムよりは、一段落ちる設定です。

「セレナ」現行モデルは2016年に登場した5代目。2019年にマイナーチェンジを受け、e-POWERの投入、先端技術「全方位運転支援システム」が搭載されました。またフロントデザインは、エスクァイア的な押し出しの強い顔になっています。したがって今もっとも新しい技術が投入されている鮮度の高い車種は「セレナ」です。

「ステップワゴン」現行モデルは、2015年にデビューした5代目。2017年にモデルチェンジして、ハイブリットモデルの投入、「ホンダセンシング」のアップデートが施されました。5代目ステップワゴンの機能面の最大の特徴は、横に開くテールゲート「わくわくゲート」です。また2015年当時としては、ミニバンで初めてダウンサイジングした1.5リッター直噴エンジンを搭載し、燃費でも一歩リードしました。ホンダ独自の低床技術が生きる広い室内空間が魅力のミニバンです。

複数人の家族で乗る福祉車両としては、このクラス以上が快適です。「ノア」と「ボクシー」が売れていますが、技術の先進性では「セレナ」、室内空間の広さは「ステップワゴン」がリードします。走行性能や燃費には車種での大きな差はありません。むしろ車種の中でどのグレードを選ぶかで変わります。

福祉車両は、マイカーとしてとても魅力的です。現在のカタログモデルはレベルが高く、車としての楽しさをあきらめる必要はありません。

(本稿は2020年4月に執筆しました)

別稿で「自動ブレーキなど主要メーカー福祉カーに装備される先進安全装置」を掲載しています。ご参照ください。

自動ブレーキなど主要メーカー福祉カーに装備される先進安全装置

各メーカーがカタログモデルとして販売している福祉車両には、軽自動車からフルサイズミニバンまで、今やすべての車両にカメラとレーダーが装備され、自動ブレーキなどの先進安全システムが実装されています。

このようなシステムがある車両は、規定に基づき「サポカー」と表示され、もっとも装備が充実している車両は「サポカーSワイド」と表示されます。

2020年現在、新車で発売されている「サポカー」にはどのような機能があるのか、分かりやすく解説します。

〇走行時の衝突回避機能

走行している車両、歩行者、自転車、動かない障害物に対して、走行中に衝突する可能性を検知し、警告音、警告表示、ブレーキ作動、ハンドル作動、シートベルトの締め付けなどを機械的に行います。夜間の歩行者を認識できるシステムはありますが、夜間の自転車はまだ認識できません。

制動可能な速度は、速度差で時速30kmから50km程度まで。この速度はあくまで目安であり、衝突の角度、路面の状況、タイヤなど車両のコンディションにより変わります。

また後方から接近してきた車両を検知して、アラートを発するシステムもあります。

〇踏み間違いによる衝突軽減機能

ブレーキとアクセルの踏み間違い事故対策の機能です。前後のカメラで障害物を認識し、障害物が3m以内にあるのに、アクセルを強く踏み込んだ場合、警告音や警告表示を発し、同時にエンジン出力を低下させ、徐行速度に落とします。

それでも衝突が避けられない場合は、ブレーキを作動させる機能がついているシステムもあります。

ドライバーがアクセルを踏み続けた場合は、衝突を回避することは出来ません。

〇車線逸脱防止機能

走行車線からはみ出さないように、警告がでるシステムです。警告音、警告表示、そしてハンドルアシストが行われます。

自働車専用道路での利用を想定したシステムなので、一般的には時速60km以上から機能します。システムによってはもっと低速から機能するタイプもあります。

〇自動追従機能

設定した速度以内で、設定した車間距離で、交通の流れに乗って自動で速度調整を行う機能です。主に高速道路での利用が想定されたシステムです。

システムにより可動する最低速度と設定可能な最高速度が異なります。居眠り運転防止のため、停止状態からは自動発進しません。

〇車線変更時の死角警告機能

車の斜め後ろは死角です。主に車線変更時の事故を防止する目的に、斜め後ろの走行車両を検知して、光や音で警告するシステムです。

〇標識認識機能

最高速度、一時停止、車両進入禁止などの標識をカメラで認識して、インパネなどに表示するシステムです。

〇ハイビーム自動切替機能

夜間、カメラやレーダーで周囲の状況を認識し、ハイビームとロービームを自動で切り替えるシステムです。

〇駐車支援機能

ソナーで周囲の障害物を感知してアラームを発するシステム。

カメラで車の後方あるいは周囲すべてを映像化してモニターに映すシステム。

そして映像で駐車場所を指定すると、自動でハンドルが作動するシステムなどがあります。

〇視覚支援機能

まだ搭載車両は少ないシステムですが、カメラで写すリアルタイムの映像を、夜間など視界が悪い状況でも見やすい画像に変換して、バックミラーやドアミラー、または運転席前のフロントディスプレイに投影するシステムです。

〇先行車発進お知らせ機能

安全システムではありませんが、信号待ちや渋滞時など、停車している状態から前の車が動くと、アラームを発する機能です。

現在の福祉車両は、様々な安全システムが標準装備され、あるいはオプション装着できます。福祉車両選びの際は、安全システムの装備状況も考慮してください。

(本稿は2020年4月に執筆しました)

別稿で「福祉車両の快適装備 消費税が非課税になる純正オプション」を掲載しています。ご参照ください。