子供の入所施設にいる大人の障がい者「過齢児問題」をやさしく解説

過齢児問題

過齢児とは、18歳を過ぎても地域の大人の施設に移行が出来ずに、「障害児入所施設」で生きる重度障がい者のことです。2020年7月時点で、全国に446人の過齢児がいます。

過齢児の何が問題なのか。福祉行政はどのような対応をしているのか。過齢児問題を解説します。

なお本稿では「加齢児」ではなく、より意味が近い「過齢児」と表記させていただきます。

○典型的な過齢児のイメージ

400人超の過齢児の障がいの状況は一人ひとり違いますが、問題の理解を容易にするために、典型的なイメージを紹介します。

障がい児入所施設は「福祉型」と「医療型」があります。過齢児の多くは、福祉型の施設に入所している重度の知的障がいがある人です。そして自傷行為や他害行為のリスクがあり、環境の変化に弱い、強度行動障がい者が多いのが特徴です。

強度行動障がい者については、別稿「自傷、攻撃、こだわり 行動障がい児者支援の現状をやさしく解説」「睡眠障害・自傷行為・奇声など強度行動障害を伴う身体障がいがある人」ご参照ください。

その多くは18歳未満から施設に入所している人なので、過齢児の保護者は、なんらかの事情により、どこかの年齢で、過齢児を自宅療養することが出来なくなっています。

○法律上の問題

過齢児問題の「問題」とは、一つは法律です。児童福祉法が2010年に改正され、2012年に施行されました。この改正により「障害児入所施設」は「児童福祉施設」と規定され、18歳以上の障がい者は「障害児入所施設」から退所することが原則になりました。

この法改正の目的は、18歳以上の障がい者は就労支援施策や自立訓練を通じて地域移行を促進するなど、大人としての適切な総合的支援を行うことです。

また「障害児入所施設」の中に児童と大人が混在することで、年齢に合った児童集団の形成が困難になり、年齢に合わせたきめ細かい支援体制の確保ができないなど、「障害児入所施設」の支援の質の低下を防止する狙いもあります。

○受け皿となる施設不足の問題

過齢児問題のもう一つの「問題」は、地域に過齢児を受け入れる施設が足りないことです。したがって受け皿となる施設に余裕がある地域は過齢児が少なく、受け皿となる施設が不足している地域には多くの過齢児が存在します。

このため過齢児のなかには、住み慣れた地域から離れ、受け入れてくれる遠隔の施設へと移るケースもあります。

毎年毎月、18歳になる「障害児入所施設」利用者はいます。専門的な知識と技能を有するスタッフを配置した、重度障がい者の新規受け入れができる施設を、全国くまなく整備する必要があります。

○高齢者介護施設への移行問題と同質

過齢児問題の裏の「問題」は、65歳以上になった重度障がい者の高齢者施設への移行問題です。すでに幾つかの行政上の融通緩和策はありますが、原則として65歳からは、重度障がい者は、障がい者福祉施設から介護保険制度下の高齢者施設に移行します。

現在「障害児入所施設」にいる過齢児の年齢は、30歳未満が大半で、ほぼ全員が50歳未満です。したがって介護施設への移行は、現時点での過齢児問題の表のテーマではありません。しかしながら、年齢基準でサービス対象を区分けする政策を遂行するには、対象者がその年齢になった時点で、速やかに地域で次のサービスへ移行できなくてはなりません。

18歳「過齢児問題」は、将来の65歳「過齢者問題」と同質です。65歳の重度障がい者は、自宅で親が介護するケースは稀なので、その多くは施設入所者です。65歳「過齢者問題」も見据えて、各地域で年齢によるサービス移行を推進できる体制を構築する必要があります。

○長引く特例による当面対策

過齢児問題は難題です。そのため、2012年に改正児童福祉法が施行された時点で、2018年3月までは過齢児が認められる特例が制定されました。

そして2018年になっても過齢児問題は解決できなかったので、特例は2021年3月まで、3年間延長されました。

2020年2月には「障害児入所施設の在り方に関する検討会」から、特例を「これ以上延長することなく成人期にふさわしい暮らしの保障と適切な支援を行っていくべきである。」と提言されています。

しかし2021年になっても、過齢児問題は現存します。特例の形式や内容は変わりますが、事実上特例は2022年まで1年間は延長される見込みです。

○行政の過齢児問題対策案

法律により移行が規定されてから、長い年月が経過しましたが、過齢児問題は解決できません。2021年時点で、厚生労働省は以下の対策案を打ち出しています。

・「障害児入所施設」に、過齢児問題対策を担当するソーシャルワーカーを配置させ、重度障がい者の地域移行を推進させる。そのための報酬上の評価を創設する。

・現入所施設と都道府県や市町村、移行先候補の成人施設の関係者や団体が連携する、「移行調整の枠組み」を創設する。この枠組みの中で、新グループホームの整備も含めて、移行先の調整や受け皿整備の有効な方策を丁寧に整理する。この新たな「移行調整の枠組み」等を議論する実務者協議の場を厚生労働省に設け、令和3年夏までを目途に結論を得る。

・令和3年度末までを支給期間として、特例的な「経過的施設入所支援サービス費」と「経過的生活介護サービス費」を支給する方向で法令改正を検討する。最終的な特例期限は、すべての過齢児が円滑に移行できる施設整備の準備に要する期間を考慮して検討する。

要約すると、国は当面対策と根本対策の両面で予算を用意し、個別の課題解決は各地域が進めるという案です。過齢児問題は、各地域で官民が協力して課題解決に取り組む必要があります。

(本稿は2021年2月に執筆しました)